24時間看護師常駐 【カイロス・アンド・カンパニーのホスピス住宅】

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体力をつけて娘の結婚式に出席したい

体力をつけて娘の結婚式に出席したい

ファミリー・ホスピス ライブクロス

明美さん(仮名)のケース

50代女性。多系統萎縮症という難病で入院していたが、娘の結婚式への出席を見据え退院を希望。病院看護師から、難病ケアやリハビリに精通したスタッフがいる当ハウスを紹介される。

2012年 多系統萎縮症を発症
・手足が動かしにくくなる
・事務職として働いていたが、発症後しばらくして離職
2013年 確定診断が下る
・難病を専門とする病院に入院
2018年1月 ハウスへの入居を決断
・難病に精通したスタッフがいる当ハウスを病院看護師から紹介される
・娘の結婚式を見据えて、専門病院を退院
試行錯誤しながらコミュニケーションを確立
・入居時、文字盤を用いたコミュニケーションは難しい状態になっていた
・療法士の提案で、特殊なパソコンを導入
徐々に外出のための体力をつける
・離床の時間を長くするためのリハビリを行う
・福祉用具業者が月1回、車椅子のフィッティングに訪れる
4月 娘の結婚式に出席
・フラットになる車椅子で、ほとんどの時間を会場で過ごすことができた

明美さんが多系統萎縮症を発症したのは50代前半。病名がわかるまで医療機関を転々としたが、確定診断が下りた後は神経の専門病院に入院し、療養生活を送っていた。2018年に娘さんの結婚式が行われることになり、明美さんは出席を希望。しかし入院中は長時間の外出が難しい状態であり、本人も家族も諦めかけていた。

そんな時、病院の看護師から当ハウスを紹介される。難病に精通したスタッフがおり、一人ひとりに合ったコミュニケーションツールを取り入れていること、看護師が24時間常駐していて適宜吸引を行えることが、入居の決め手となった。ご家族が見学に訪れ、入居を決断した。

多系統萎縮症は、10万人に一人程度が発症する難病で、だんだん身体が動かなくなる病気だ。音は聞こえ理解もできるが、声も出せず、自分の意思を表現することができなくなってしまう。こうした場合、五十音や定型文が書いてある文字盤を、指や目線で指し示すことでコミュニケーションをとるのが一般的だが、明美さんは退院時、文字盤を扱うのが難しくなっていた。スタッフは、どのようにコミュニケーションをとるのがいいか日々試行錯誤した。現在は主に、親指だけで動かせる特殊なパソコンを使用し、スタッフに必要な情報を伝えている。

入居してからは、娘さんの結婚式に出席することを目標に、リハビリを続けてきた。介護士・療法士の支援を受けながら、毎日2回は離床して、徐々に起きている時間を伸ばそうとした。しかし、1時間程度座っていると疲れてしまい、なかなか思うようにはいかなかった。式の1か月前にご家族と打ち合わせをして、休める時間を確認し、無理なく出席できるよう段取りをした。すぐに横になれるよう、フラットになる車椅子も施設の備品から用意した。

結婚式当日、明美さんは今までにない力を見せ、家族の協力を得ながら、ほとんどの時間を会場で過ごすことができた。本人の自信にもつながる良い機会となった。

座談会

病気があってもチームの力で希望を叶える

看護師・介護士・センター長が、これまでの明美さんのハウスでの生活について振り返りました。

本人の希望をスタッフで共有

介護士:明美さんは、病気が原因で表情が硬くなることも多いですが、笑うととてもキュートな方ですね。歌が好きで、音楽鑑賞のレクリエーションや、月1回の音楽療法の場によく参加されています。

看護師:温厚な方で、気遣いも素晴らしいですよね。ご自身で身体を動かせないので、スタッフが介助する機会も多いのですが、いつも「ありがとう」「ナイス、ナイス」などと、感謝の気持ちを伝えてくださいます。

センター長:入居された時、すでに文字盤を使うのが難しい状態だったので、どのようにコミュニケーションをとるのがいいか試行錯誤しましたよね。

介護士:スタッフ同士で「今日はこんなことがあったよ」「こうやったらうまくいったよ」という情報共有をして、明美さんご本人が生活の中でどんなことを望んでいるかを、皆で理解していきました。

センター長:まだお若いこともあり、新しく導入したパソコンもすぐ使いこなしていらっしゃいましたね。「身体を動かしてほしい」「たんの吸引をしてほしい」などといったよくある要望を定型文としてパソコンに登録しておき、ナースコールの際に表示していただくことで、スムーズなコミュニケーションができていると感じます。

看護師:食事は経管栄養ですが、まだ少し飲み込む力があるので、食事のように楽しんでいただこうと、味のある栄養剤を採用しています。ぶどうジュース味やみかんジュース味などがあるため、少し口に含んでいただき、その日の気分に合う方を選んでいただいています。ご本人が生活のなかで少しでも喜んでくださることがあると、私たちもうれしいです。

介護士:最近は、スマートフォンとパソコンを連動させて、ご家族やご友人とメッセージアプリを使ったやり取りを楽しんでいらっしゃるようです。立ち上げの時だけ介助が必要ですが、その後はご自身で操作されていますよ

式を最初から最後まで満喫

センター長:娘さんの結婚式に出席することが大きな目標でしたから、そのためのリハビリも頑張っていらっしゃいましたよね。

介護士:そうですね。できるだけ離床時間を増やそうと、介護士の支援のもとで1日2回は起き上がるようにしていました。また福祉用具業者さんが、できるだけ楽に座っていられる車椅子を提案してくださり、月に1回はご本人の身体に合うようフィッティングに来てくださいました。

看護師:とはいえ、離床時間はそれほど伸びず、座位ではすぐに疲れてしまう状態でしたから、式にどのくらい出席できるのか、どのくらい休ませればいいのか、ご家族も不安そうにされていました。

介護士:そこで、打ち合わせの際、移動もでき、そのまま休むこともできる、フラットになる車椅子を提案したところ、ご本人もご家族も納得してくださいました。

看護師:また、人前に出るのだからもっと体重を増やしたいと、積極的に栄養も摂取していました。まさにこの日に懸けていましたね。

介護士:ご祝儀袋も当日の持ち物も、できる限りご自分で準備されて、本当に楽しみにしていらっしゃいました。着物は、車椅子でも着られるセパレート型のものをレンタルし、柄はご本人に選んでいただきました。私が着付けを担当したのですが、事前の着付け練習の際に福祉業者さんも同席してくださり、座った時に綺麗に見えるように調整してくださいました。

看護師:当日は私たち二人が付き添いましたが、本当に良い式でしたね。ご家族も本当に協力的で、車椅子だからといって特別な感じもなく、自然で温かい式でした。ご本人も、たんの吸引のために時々控室に戻る以外は、ほとんど席を外しませんでした。これぞ母親の力という感じですね。

介護士:娘さんがお手紙を読む場面で、「私もお母さんのように大らかで芯のある人になりたい」と言うのを聞いたときには、私も思わず泣いてしまいました。

看護師:披露宴から帰ってくるだけでも精一杯だろうと思っていたのですが、なんと明美さんはその後「お寿司を食べに行きたい」とおっしゃったのです。結局お寿司屋さんではなく喫茶店に行ったのですが、思う存分家族の時間を満喫されたようです。

介護士:長時間の外出、そして母親としての責任を果たすことができ、明美さんも自信がついたと思います。現在は、息子さんの結婚式への出席を目標に、引き続き体力づくりを続けられています。

病気だから、高齢だからと諦めてしまいがちなことでも、力を結集すれば実現できる。より多くの希望を叶えていけるよう、チーム力を高めていきたいです。

センター長インタビュー

生かされるのではなく生き抜くためのケアを

「生かされる」ことへの違和感

私は看護師として、手術室と産婦人科以外のほぼ全ての診療科を経験してきました。ホスピスの経験はなかったのですが、「施設の責任者を探している」と声をかけていただき、思い切って引き受けました。親の介護や子育てをしながら働いているので、自宅から近いことも決め手になりました。

当施設に来る直前は、透析専門のクリニックで働いていました。若い患者さんの場合は、透析を受けながら仕事をしていたり、家族がいたりと、治療の目的がはっきりしている方がほとんどですが、高齢の患者さんはそういう方ばかりではありませんでした。週3回、身体に大きな負担をかけて治療を受け、食事や水分摂取も制限されてしまう。そして治療以外の時間は、自宅でただ寝ているだけという方もいらっしゃいました。治療を続けなければ生きられないけれど、何のために生きているのかわからなくなることがあるとおっしゃる方も少なくなく、私はそういう環境でやりがいを見出すのが難しくなっていきました。

病院という場では、病院のルールやスケジュールに沿った生活をしていただくことになりますから、患者さんご本人の生活リズムとは関係なく治療や検査が入ってきます。生命の維持が優先され、患者さんの思いや苦痛が二の次になってしまうことも少なくありません。特に末期の患者さんの場合、食べられなくなったら点滴を行うため、身体に水分が溜まって、むくんでしまうところを何度も見てきました。こうした姿は不自然なのではないかと思いましたし、私自身も心苦さを感じていました。

尊厳を守り、生活を優先する

当施設に来てからは、「自然に亡くなることのなんと美しいことか」と感慨深く思うことが増えました。病院ではできなかった、生活を優先したケアが、ここでは実現できると感じています。ですから入居者の皆さんにもご家族にも、亡くなるまでの緩和ケアではなく、生き抜くための緩和ケアを心がけているとお伝えしています。生かされるのではなく、最期の瞬間まで生き抜いていただきたい。人としての尊厳を守りながら、その方らしい生活をしていただくためのケアを提供したい。そのための環境を整えていきたいと私は考えています。

北澤 直美
ファミリー・ホスピス 二子玉川ハウス センター長
看護師