24時間看護師常駐 【カイロス・アンド・カンパニーのホスピス住宅】

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自分でできることは最後まで自分でしたい

自分でできることは最後まで自分でしたい

ファミリー・ホスピス 成瀬ハウス

茂さん(仮名)のケース

90代男性、肺がんの既往あり。自宅で倒れているのを発見され、緊急搬送される。肺炎の診断を受けて入院するが、食事ができないことや拘束されることへの不満が募る。娘さんが見学に訪れ、入居を決断。

2018年3月 自宅で倒れているのを発見され、緊急搬送される
・肺がんの既往があった
・入院先では身体拘束などの処置に苦しむ
4月 ファミリー・ホスピス 成瀬ハウスに入居
・娘さんが見学に訪れ、入居を決める
7月 茂さん91歳のお誕生日
・ハウスの職員にケーキを振る舞う
2019年2月 隣室のAさんが亡くなる
・茂さんの身体機能が落ち始める
5月 ご逝去
・スーツ姿にネクタイ、表彰されたバッジをかけ、ご家族と共に見送る

2018年3月、茂さんは自宅で倒れているところを発見された。緊急搬送されて入院となったが、身体拘束など病院での処置にご本人の不満があり、当ハウスに見学に来た娘さんが入居を決めた。

入院中は身体機能が低下していた茂さんだったが、当ハウスでの生活を始めると、できることが増え始めた。自分の足でトイレに行くことや、入浴することができるようになった。本人の希望で、刻み食ではなく常食を口にするようになった。

ダイニングテーブルでは、茂さんはいつも決まった席に座った。毎朝笑顔で、入居者やスタッフと会話を交わしていた。

当ハウスはオープンキッチン形式をとっており、入居者がガラス越しにキッチンを眺めたり、調理スタッフと話しながら食事を楽しむことができる。入居当初の茂さんは1階の自室から2階のキッチンまで自分で移動し、食事を楽しんでいた。ときには職員と外食に出かけるなど、食事は茂さんの生活のなかの大きな一部だった。

91歳の誕生日があった7月には、茂さんは自分で選んでケーキを購入し、職員に振る舞った。紳士的で、周囲への感謝の気持ちは常に口に出して伝えようとする人柄だった。

2019年2月、同じ階に入居していたAさんが亡くなる。夫を亡くしていたAさんと茂さんは、親しく会話する仲だった。その頃から茂さんの体力は落ちていった。4月になると目に見えて食が細くなり、一日の中で寝ている時間も長くなっていった。

5月に入ると肺がん末期の呼吸苦が大きくなっていった。痰で気道が閉塞されることがないよう、また様々な種類の痛みに対応できるよう、スタッフと往診の医師が調整を重ねた。当初は内服していた麻薬も、徐々に貼り薬に変わっていった。

そして5月上旬、家族に見守られながら息を引き取った。スーツ姿にネクタイ、表彰されたバッジをかけた、凛々しい姿でのお看取りとなった。

座談会

一緒に食事をしたり歌ったりして最後の時を楽しむ

看護師・介護士・リハビリ職・調理師・事務職が、茂さんのホームでの生活について振り返りました。

会話しながら食事を楽しむ

看護師:茂さんはすごく紳士的な方でした。お仕事でも、役職のある方でしたよね。

介護士:食事中に咳や痰が出そうになると、離れた場所に移動されていました。人前で汚いものを見せてはいけないという思いがある方でした。

看護師:食べることにはすごく生きがいを感じていらしたと思います。オープンキッチンで食事を作っているのを眺めたり、コーヒーを飲んだりするのを楽しんでいらっしゃいました。食べ方も上品で、ゆったりのんびりと、最後まで綺麗に召し上がっていましたね。

調理師:当ハウスのオープンキッチンのカウンターでは、調理スタッフと直接話しながら食事ができます。茂さんは最初はご自身で歩くことができたので、自力でカウンターに来てくださっていました。いつもお食事は1階のリビングで召し上がるのですが、ときどき2階のカウンターで、会話しながらお食事を楽しんでらっしゃいました。たまにご昼食の後にプリンや羊羹を召し上がることもありました。他愛ない話をしながら、15時くらいから夕飯時まで過ごされていました。

事務職:入居当初は刻み食だったのですが、食欲が出たようで、常食に戻ったんです。「これは美味しいんですよ」と、お箸で上手に召し上がっていました。

介護士:茂さんが食べたがっているからと、娘さんが天丼を買って来られたこともありましたね。そうしたら一人前ぺろっと召し上がって。普段はおかゆでしたが、外出してラーメンやうなぎ、天ぷらなどを召し上がっていたこともありました。

看護師:オムレツが好きで、亡くなる三日くらい前にはご家族が作られたオムレツを召し上がっていましたね。

「ふるさと」を唱和した思い出

リハビリ職:茂さんとはよく一緒に歌を歌っていました。歌うと痰が出やすくなるし、肺活量も良くなるんです。茂さんは「ふるさと」を歌い、「あなたも歌いなさい」って言ってくださるんですけど、私も茂さんも音痴なんです(笑)。音痴と音痴を重ねて、周囲に響かせていました。その様子を、娘さんがスマートフォンで録画してくれたこともありました。

事務職:茂さんが歌っていると、他の人達も一緒に歌って、みんなが楽しい雰囲気になりましたよね。スタッフも「楽しそうだね」と、フロアに集まっていました。

介護士:お仕事をされていた頃、ご自身のお誕生日にお世話になっている方々を呼んでお食事会をされていたそうで、私たちスタッフもケーキやピザを振る舞っていただいたことがありました。そして「お礼に一曲」と、「ふるさと」を歌ってくださったんです(笑)。

看護師:本当に音程が独特なので、今でもみんなが思い出せるくらいです。懐かしいですね。

やりたいことを尊重する

介護士:夜中に一度転倒されてからは、センサーマットを導入しました。転倒して身体機能が落ちてしまうと、ご本人が一番嫌がっていた、寝たきりになってしまう可能性があったからです。また茂さんはトイレにもご自身で行きたい方でした。歩けなくなってからも、車椅子でトイレにお連れしたら、ご自身で排便されていました。自分自身でできることを奪い取らないようにしようというのが、スタッフみんなの思いでした。

自分でやりたいことを止めてしまうと、自信もどんどんなくなってしまいます。ですから、まずはやってもらって、それから「何かお手伝いしましょうか」と声を掛けるよう心がけていました。

思い出が積み重なる場所

看護師:当ハウスのリビングはシェアハウスのような機能を果たしていると思います。大きなテーブルにみんなが集まって歌ったり、イベントを行うこともよくあり、あたたかい雰囲気です。

介護士:茂さんも、「最後がここで良かった」と言ってくださっていたのが、今でも耳に残っています。

看護師:私たちスタッフは、そういうあたたかい様子をたくさん写真に撮ってきました。ご家族にお渡しするのはもちろん、事務所にも貼らせてもらっています。茂さんの「ふるさと」の歌声も、タブレットに録音してちゃんと残していますよ。それを聞くと、もちろん悲しいけれど、悲しいだけでもないんです。茂さんがこのハウスで過ごされた時間のなかには、楽しい思い出もたくさんありますからね。少しでも多くの方に、残された時間を楽しく過ごしていただきたいですし、どの方のことも後から笑顔で思い出せるようなケアをしていきたいです。

センター長インタビュー

入居者さんの本物の笑顔を引き出すために

訪問看護に魅せられて

私が訪問看護と出会ったのは母が倒れたことがきっかけでした。私は海外生活が長く、その時も海外にいて、在宅で看るのか施設で看るのかという決断を迫られました。在宅で看るには何が必要なのかを調べた時、初めて訪問看護という仕事があると知ったのです。結局、母は施設で看てもらうことになったのですが、そこから訪問看護に興味を持ち始めました。

その後日本に戻り、訪問看護ステーションの管理者を何年か務めた後、当ハウスに出会いました。高齢者向け住居の中に訪問看護があるという形に興味が湧いたこと、がんや難病の方のケアに関心があったことから、入職を決めました。

在宅と当ハウスの大きな違いは、他のスタッフのヘルプがもらえることだと思います。また、ご家族の負担を軽減できることも大きいですね。ただ、ご自宅にお邪魔し、その方のしたいことをできるだけ叶えていくというあり方は同じです。その方のために何ができるか一生懸命考え、力を尽くし、笑顔が返ってくる瞬間がとても嬉しくて、私はこの世界にどっぷり浸かってしまいました。

笑顔は相手を幸せにする

私がここで仕事をするうえで大切にしていることは、まさに“for the smile”という言葉に集約されていると思います。入居者さんから笑顔が引き出せるということは、この生活に満足してくれていることの表れだと思いますし、ストレスも少なく済んでいるのではないかと思うのです。私たちはどうやったら入居者さんから本物の笑顔を引き出せるのかを考えなければなりません。

その時に思い出すのが、アメリカで勉強していた時に知人に言われた「自分が幸せなら、相手も幸せにできるんだ」という言葉です。私は今までそういう考え方をしたことがなかったので、その言葉に強烈な刺激を受けました。あなたの笑顔がみんなを幸せにする、逆にあなたが不機嫌だと周りも気持ち良いものではない。ならば、まずは自分が変わらなければならないと思いました。自分が幸せで、笑顔でいられれば、相手も笑顔にできるのではないか、と。

ここのスタッフは、みんなそれができていると私は思います。だから当ハウスには、いつも利用者さんの笑顔が溢れていますよ。

坂元 章子
ファミリー・ホスピス 成瀬ハウス センター長
看護師