24時間看護師常駐 【カイロス・アンド・カンパニーのホスピス住宅】

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「少しでも口から食べたい」という希望を叶える

「少しでも口から食べたい」という希望を叶える

ファミリー・ホスピス 池上ハウス

由美子さん(仮名)のケース

60代女性、多系統萎縮症。自宅で療養中に発熱し、大学病院で尿路感染症と診断される。褥瘡がひどかったためしばらく入院治療を受け、退院時に大学病院のソーシャルワーカーの紹介で当ハウスに入居。

2018年10月 多系統萎縮症の診断を受ける
・ご主人の介護のもと、自宅で療養していた
2019年1月 発熱のため大学病院を受診し、尿路感染症と診断される
・褥瘡がひどかったため、そのまま入院
・入院中に腸閉塞や気管狭窄などを起こす
・呼吸苦を緩和し、褥瘡の痛みを抑えるため、モルヒネの持続投与を始める
3月 大学病院で中心静脈ポートを造設
・大学病院では経口摂取は禁止されていた
5月 ファミリー・ホスピス池上ハウスに入居
・入居直後は発語がほとんど聞き取れない状態だった
本人の希望のもと、徐々に食事を口から摂るようになる
・ご主人が手作りの食事を自宅から持参し、医療者と相談しながら食べさせる
6月 少しずつ声も出るようになり、1か月半ほど良い状態が続く
7月 熱が出るなど、少しずつ病状の進行が見られるようになる
・再び声が出にくくなる
娘さんとお孫さんが訪れ、半年ぶりの再会を果たす

由美子さんは2014年頃から転倒しやすくなり、2018年に難病である多系統萎縮症の診断を受けた。しばらくは自宅で療養していたが、2019年のはじめに発熱し、大学病院で尿路感染症と診断される。その際、褥瘡がひどいことがわかり、そのまま入院することになった。

大学病院で経過観察中も、病状は徐々に進行していた。1月には腸閉塞が起こり、経口摂取も経管栄養も難しいということで、3月には中心静脈ポートを造設。由美子さんは少しでも口から食べたいと思っていたが、口腔内の状態が悪く、嚥下もうまくいっていなかったため、食べることは許されなかった。また、気道狭窄が起こり救命措置を行ったこともあった。そこで、呼吸苦の緩和と、褥瘡の痛みのコントロールのために、モルヒネの持続投与を始める。

大学病院を退院するにあたり、ソーシャルワーカーに当ハウスを紹介される。難病患者の入居を受け入れていること、モルヒネをはじめとした様々な薬剤を管理できること、自宅からの距離が近いことなどが、入居の決め手となった。

入居後は、由美子さんの希望のもと、リスクを踏まえた上で口から食事を摂ることにした。ご主人が手料理を持参し、お腹の状態とお通じの状態を見ながら、少しずつ食べる量を調整していった。また、入居直後は発語がほとんど聞き取れない状態だった由美子さんだが、徐々に声が出るようになった。それから1か月ほど、よく食べ、よく話し、よく笑う時期を過ごすことができた。

7月中旬頃から、発熱したり、再び発語が難しくなるなど、病状の進行がみられるようになる。ただ、状態が悪くなっても口から食べることを優先したいと由美子さん。そこで、食事を完全に止めることはせず、抗生剤の使用や点滴でカバーした。月末に、海外で暮らす娘さんとお孫さんが訪れることになり、その日までに少しでも良い状態を保つことを目標に過ごした結果、無事に再会を果たすことができた。

座談会

食べたいものを食べ元気を取り戻して娘と孫に再会できた

看護師4 名・介護士・リハビリ職2名・コンシェルジュ2名が由美子さんのホームでの生活について振り返りました。

発語と食事が少しずつ改善

看護師1:入居した頃の由美子さんは発語が難しく、蚊の鳴くような囁き声でした。ご本人も伝わらないのが辛そうで、同じことを何度も言い続けたりしていました。ご家族から「話は最後までちゃんと聞いてほしい」という要望がありましたし、私たちも理解したかったので、ゆっくり時間をかけて、会話が引き出せるように関わっていました。

看護師2:もともとおしゃべりが好きな方なんだと思います。ただ、早口で滑舌が良くなかったので、私たちから「一言ずつ言ってみてください」と働きかけるなどして、だんだんコミュニケーションができるようになりました。

リハビリ職1:入居したばかりの頃は、体や首、顔、口などの筋肉がガチガチに固まっていました。筋肉が柔らかくなれば、その分少しの労力でも動かせるようになりますから、リハビリはまず筋肉や関節をほぐすところから始めました。

リハビリ職2:口や舌の動きも見て、動きにくい原因は何なのかを探りながらリハビリを行いました。食事の許可が出て口から食べられるようになると、相乗効果で少しずつ発語も楽になったようで、良かったですね。

コンシェルジュ1:お食事をされるようになってから、中心静脈栄養の頃とはお顔つきが全く変わりました。食べると血行が良くなるのもあって、ご自身も食べる意欲が湧いたようです。

コンシェルジュ2:ご主人も、はじめはヨーグルトなどの柔らかいものを少しずつ食べさせる程度でしたが、今ではカツ丼などのボリュームのあるものも作ってお持ちになるようになりました。

コンシェルジュ1:ご主人、「若い頃は子育てを妻に任せきりだったから、今は食事を作るぐらいしないと」と、明るく懸命に看病されていますよね。

リハビリ職1:由美子さんは普段ベッドで過ごされていますが、私たちが介助してリクライニング式の車椅子に乗り、ご主人と一緒にコーヒーを飲まれたりすることもあります。短い時間ですが、良い時間を過ごされているんじゃないかなと思います。

根気よく望みを探り、叶える

介護士:由美子さんはナースコールがとても多い方でした。そういうときに介護にできることってそれほど多くはないのですが、一緒に過ごすなかで少しでも不安を感じ取れるようにならないといけないなと感じましたね。

看護師3:思いが通じていないときや、フィットした体位が取れていないときに、合図としてナースコールされていたように思います。介護士さんも好みの体位を探るなど、丁寧に関わってくれていたと思いますよ。

看護師4:私たちが他の方の対応に追われているときには、よくコンシェルジュさんが対応してくれて、助かりました。

コンシェルジュ1:看護師さんは医療中心、介護士さんは介護中心に動いていますから、そのどちらでもないことをカバーしていくのが私たちの仕事だと思っています。由美子さんは不安が強く、病院ではコールしても来てくれなかったというトラウマがある方でしたから、私たちは呼ばれなくても顔を出すようにしていました。

看護師1:ナースコールの裏には辛さがあるはずだからと、みんなが根気強く関わることで、由美子さんが少しずつ何を望んでいるのかがわかるようになってきました。希望が叶った時に「ありがとう」と言ってくださったり、笑顔になってくださったときは、嬉しかったですね。

目標に向けてスタッフが団結

リハビリ職2:それでも不安な様子が見られるときは、お孫さんの話題を出すと、安心されるようでした。

コンシェルジュ2:娘さんとお孫さんが海外からいらっしゃることがわかった時には、それを目標に頑張っていらっしゃいましたよね。見事に目標を達成されて、素晴らしいと思います。

コンシェルジュ1:娘さんとお孫さんが施設にいらっしゃる1週間前に、由美子さんは熱を出してしまいました。その時、「せっかく今まで順調だったんだから、なんとかこの日まで少しでも良い状態であってほしい」とスタッフみんなが心から祈っているのが印象的でしたね。

看護師2:娘さんとお孫さんに会うという目標は無事達成できましたが、それからはあまり状態が良くないので、次に達成したいことはまだ見えてきていません。私たちスタッフとしては、今はとにかく穏やかに過ごしていただくことを目標にケアを行っています。

センター長インタビュー

自ら考え自ら行動できるスタッフを育てたい

がん看護を志したきっかけ

私ががん看護に興味を持ったのは、看護師になりたての頃に出会った患者さんがきっかけです。その方は60代の女性で、膵臓がんで入院されていました。私は身の回りのお世話をしたり、散歩へお連れしたりしていましたが、ある日の申し送りで、その方がナイフでお腹を傷つけ、自殺未遂を図ったことを知らされました。私はどうしてそんなことを考えてしまったのだろうとショックを受けました。

当時は、ちょうど緩和ケアが日本でスタートした頃でした。私は始まって間もない緩和ケア病棟で働かせてもらうことにしました。そこで、症状コントロールの方法や患者さんの考え方、チームでのケアなど、多くのことを学びました。その後、もう少し深く学びたいと思い、時を同じくして制度が確立された、がん看護専門看護師の資格が取れる大学院に進学しました。

それからは大学病院や急性期病院で、緩和ケアチームの一員となったり、緩和ケア病棟の立ち上げを行ったり、専門看護師として教育や研究に携わったりと、様々な活動を行ってきました。そしてその頃にお世話になった方にお声がけをいただき、当社に入社しました。

新たなニーズを拾い上げる

当ハウスは病院と違って、生活における制限がないので、ご本人やご家族の希望を叶えやすい環境だと思います。ただ、そのためには人と時間とお金が必要で、それらをマネジメントするのは思った以上に難しいですね。私は管理職の経験がないので、毎日が試行錯誤の繰り返しです。

また、当ハウスにはがん末期の方だけではなく難病の方もいらっしゃいます。私は当ハウスに来てから難病の看護を学んでいますが、ご本人の希望を実現していくことの難しさを知ると同時に、とても学びがいがある分野だと感じるようになりました。がんも難病も、ケアの基本は一緒だと思いますし、一方の経験が他方に活かせるのではないかと思っています。

これからはセンター長として、自ら考え自ら行動できるスタッフを育てていきたいです。日々のケアの中から新たなニーズを積極的に拾い上げていくようなアセスメントができれば、より良いケアを実現できるようになるのではないかと考えています。

大谷木 靖子
ファミリー・ホスピス 鴨宮ハウス センター長
看護師